【本の感想】ネタバレなし「今日未明」報道されない裏の物語

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新聞の片隅に数行だけ載る小さな事件。他者から見れば「そうなんだ」で終わる話ですが、その数行の中には、それぞれの人の人生が詰まっている。当事者にとっては、たった数行では片付けられない大事件なのに、他人からは些細な出来事に見えてしまう。報道されない裏にある物語。世の中には、見えているようで見えていないことが、溢れているのかもしれません。

目次

「今日未明」は、辻堂ゆめさんによるイヤミス小説です。5つの事件が短編として収録されており、それぞれが独立した話。事件ごとに区切って読めば、テンポを崩さず進んでいけるので、まとまった時間が取れない人にもオススメです。

■自宅で血を流した男性死亡 
別居の息子を逮捕

■マンション女児転落死 
母親の交際相手を緊急逮捕

■乳児遺体を公園の花壇に遺棄 
23歳の母親を逮捕

■男子中学生がはねられ死亡 
運転の75歳女性を逮捕

■高齢夫婦が熱中症で死亡か 
エアコンつけず

引用:『今日未明』辻堂ゆめ(徳間書店)帯より

どこかで見たことがあるような内容の事件ばかり。それぞれを当事者目線で体験できるこの作品では、感情が大きく揺さぶられ、無機質なはずだった事件が、決して忘れられない出来事に変わります。見えているようで見えていなかった物語を、ぜひ手にとって体験してみてください。

事件との「距離」を考えさせられる作品

この物語は、プロローグとエピローグ、そして5つの事件を読んで、初めて完成する作品。プロローグに登場する視点は、私かもしれないし、あなたかもしれない。距離が離れていれば、枯れた花が5〜6本混じっていたとしても、綺麗な花壇に見えてしまう。私たちは他人の人生を無関係な距離から眺め、わずかな情報で全てを知っているつもりになるのかもしれません。

どこにでもある日常の中で感じる少しの幸せ、たまに感じる一滴のシミのような不安。気づかないうちに一滴、また一滴と増えていき…後半では今まで感じていた不安の答え合わせ。そして、やるせなさと、ざらりとした読後感。無機質な新聞の見出しの向こう側には、体温を持った誰かの感情がある。じっとりとした感覚が、記憶に深く残る一冊です。

自分が職場で感じるモヤモヤを相談しても、他人事のように軽く扱われ、いまいち理解してもらえない気がする。「距離」で見え方が変わることを体験できる本。誰かと心の距離を感じたことのある人は、1話だけでも読んでみてください。

報道で知る事件、友人からの愚痴、ネットに掲載されるゴシップ。数分後には忘れられてしまうような、そのひとつひとつには物語があります。先入観や好奇の目で見られ、やり場のない思いを抱えた人がいるこの世界。「今日未明」は、そのやりきれない想いを、すくい上げてくれるような本です。

見えているようで、見えていない。知っているようで、知らない。本人が抱えた事実を、周囲がすべて理解してくれるわけではありません。私たちの生きる世界は、思い込みや曖昧な空気、見たいように見えてしまう目、都合よく解釈する考え方、ほんの少しの価値観で作られているのかもしれません。私は今日も、無関係な数行のネットニュースを読んで、知ったか気分で生きていきます。

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