職場でお菓子が配られる。こんな日常の一コマが、胸の奥をザワザワさせる出来事に変わってしまう。それが「お菓子外し」という大人の職場いじめです。
・いつも自分だけが外されている?
・気のせいかもしれない…
くだらない。そう思おうとしても、胸の奥ではしっかり傷ついている。結論から言うと、職場のお菓子外しは「たかがそのぐらい」「くだらない」で済ませていい問題ではありません。日常的に行われている場合、ハラスメントになる可能性が出てきます。
本記事では、お菓子外しを何度も経験した筆者の体験談をもとに、その具体的なやり方や構造を整理しています。そこには、社内のヒエラルキーをさりげなく示す力関係や、「あなたは下」という無言のメッセージが含まれていることもあります。胸の奥がザワザワする感情は過剰反応ではありません。見下されるような扱いは、くだらない出来事ではありません。ハラスメントに該当するかどうかよりも、大切な問題がそこにあるからです。
お菓子外しは、日常に紛れ込む
お菓子外しは、あからさまではありません。だからこそ厄介です。「あなたにはあげません」と言われるわけではない。でも、気づけば「いつも」自分だけが外されている。

自分の席だけ、自然に飛ばされる。電話対応中のタイミングで配られる。他の人はマドレーヌやフィナンシェ、自分の机には小さなクッキーが一枚だけ。他の人には自然に差し出すのに、自分にだけ「…いる?」と真顔で確認される。
ひとつひとつは、職場の「いつもの光景」に見える何気ない行動。言い訳ができる程度の出来事です。
・タイミングが悪かった
・気づかなかっただけ
・うっかりしてた
そして最後は「ごめんね」で締めくくられる。その一言で、場は丸く収まり、何もなかったことになる。
でも、それが何度も続くと、胸の奥がザワザワし始めます。その違和感は、決して気のせいではありません。お菓子外しは、一撃で傷つけるものではありません。じわじわとメンタルを削るやり方です。回数を重ねると、「あの人、いつももらえてないよね?」と感じ始める人も出てきます。それでも、誰も止めてくれない。お菓子配りの時間は、ただの日常の一コマから、社内ヒエラルキーの確認タイムへと変わっていきます。
こうしたお菓子外しには、いくつかのパターンがあります。相手の性格や立場によって選ばれる方法は違いますが、ターゲットの立ち位置を周囲に示すという点では共通しています。代表的な手口を挙げるので、自分の経験と重なるものがないか、照らし合わせてみてください。
①一応声はかける型
お菓子をみんなに配るとき、他の人には「取引先の方からいただいたので」と自然に机に置いていく。けれど自分の前だけで手が止まり、「あなたも…いる?」と真顔で確認される。要らないでしょ、という本音がにじむ瞬間です。

別にどうしても食べたいわけではないし、甘いものが嫌いだと言った覚えもない。それでも毎回その確認を挟まれると、胸の奥に小さな違和感が積み重なっていきます。「あなたは自然に配られる側ではない」という立ち位置が、お菓子配りを通して示されます。
②空気で差をつける型
取引先から頂いたお菓子を配りながら、「これがおすすめ」「この店なら絶対これが美味しい」と明るく声をかける。悩む時間すら和気あいあいとしていて、その場の空気は軽やかに流れている。けれど自分の前に来た途端、「えーっと…どれか食べる?」「どれも美味しいと思うよ…」と、急にトーンが変わる。さっきまでの明るさはなく、早く決めてほしいという空気。

フィナンシェのような少し大きめのお菓子を選ぶと「あ…それ選ぶんだ」とボソッと一言。選び直そうとすると「いや、いいのいいの。気にしないで」と笑顔で返される。配り続ける先で、「◯◯さんがさっきフィナンシェ選んで最後だったから残ってないの。ごめんね」と周囲に聞こえるように言う。さっきの時点ではまだいくつか残っていたのに、私が最後の1個を取ったからなくなったような状況が、なぜか出来上がってしまいます。
こうして何度も同じ空気になると、一番小さくて人気がないお菓子を、一瞬で選ぶしかなくなります。お菓子という小道具とその場の空気を使い、社内ヒエラルキーを可視化させてくる手口です。
③お菓子のサイズで差別化する型
トイレや来客対応など、自分が席を外したタイミングでお菓子が配られる。席に戻ると、小さなクッキーが1枚だけ机に置かれている。他の人の机には、クッキーが4〜5枚入った袋や、マドレーヌ、マカロン。

見比べなくても分かるくらい、量も種類も違う。一応お菓子は置かれているけれど、差は明確。「あなたと他の人は同じ扱いではありません」という無言のメッセージも一緒に置いていかれている感じ。お菓子のサイズや種類を使って、社内ヒエラルキーを可視化してくる型です。
④見せつけ型
自分も他の人も席にいるなかで、加害側が「自分で持参したお菓子を善意で配りはじめる」。順番に机を回っていく流れの中で、自分の席だけをスッと通り過ぎる。視線も止めず、言葉もない。明確に「あなたにはあげません」と宣言されている状態です。

取引先からいただいたお菓子なら全員に配るのが前提になりますが、本人が持参したものは個人の持ち物です。だから「全員に配りなさい」と誰も言えない。周囲も空気を壊したくないし、面倒事に巻き込まれたくない。結果、周囲も見ていないふりをするしかなくなります。
表面上の出来事としては、何もされていません。ですが、その「何もされないこと」によって、その場にいる全員の前で「あなたは除外」と暗に示されています。こっそり「大丈夫?」と声をかけてくれる人がいても、「大丈夫ですよ」と気丈に振る舞うしかありません。個人所有のお菓子を道具にして、誰も何も言えない状態から繰り出される社内ヒエラルキーの公開処刑という手口です。
⑤お菓子外しの証拠を残さない型
電話対応や来客対応など、「その場でお菓子を選べないタイミング」にあえて配り始める手口があります。「◯◯さん電話中だし、終わってから声かけたほうがいいよね」と周囲に声をかけ、他の人へ配り始める。これで「電話中だったから一旦飛ばした」という正当な理由が完成します。
しかし、電話が終わっても声はかからない。自分から聞きに行くか、最後に残り物を持って来られるかのどちらかになります。残っているのは人気のないお菓子が数個。あるいは何も残っていないことも。

加害側は「すっかり忘れてた、ごめんね」と親しげに謝ります。理由はいつも「それっぽいもの」が用意されており、急な仕事、別の電話など。外から見れば、ただの行き違いが起こっただけの状況です。ですが、これが毎回同じ相手に起こるとしたら偶然でしょうか。
加害側へ違和感を伝えると、「そんなふうに思ってたんだ。配り忘れる私が悪いよね、ごめんね」と、なぜか加害者が被害者のポジションに収まっています。そうすると今度は、被害を受けているはずの側が「お菓子に執着する人」という加害側ポジションに押し出される構図が生まれます。証拠は残らない。悪意も証明できない。だからこそ、一番厄介な手口です。
お菓子外しはハラスメントなのか?
上司や周囲に相談したとしても、「たかがお菓子の話でしょ?」と思われるかもしれません。実際のところ、「お菓子を配らなかった」という行為そのものを、ハラスメントと断定するのは難しいかもしれません。明確な暴言も、業務上の不利益も、表面上は存在しないからです。ですが、それが継続的に、そして特定の相手に対して意図的に行われているとしたらどうでしょうか。「みんなと同じ扱いを受けられない状態」が繰り返されることは、心理的な圧力になります。立場の差が絡んでいれば、パワハラに近い構造になる可能性もあります。

ただし大切なのは、「これは何ハラか」を分類することよりも、自分がその状況を苦しいと感じているかどうかです。苦しい、辛い。でも、たかがお菓子だし…。自分が気にし過ぎ?もしこれがハラスメントに当たるなら、相談しても変ではないのかもしれない…。そんな気持ちで、ネット検索の画面を開いてしまう。
お菓子外しを繰り返されることが苦しいと感じるのであれば、「ハラスメントとしての可能性を探る」ことよりも、自分自身の心を守ることを、最優先にしてもいいのではないでしょうか。
お菓子外しは、仲間はずれ
小さい頃、「仲間はずれ」を体験したことはありませんか?大人になった今、お菓子という小道具を使って、その「仲間はずれ」が再現される。それは日常の一コマに紛れ込みながら、「あなたはこの輪に入れない」と示される出来事です。

お菓子外しで悩んでいる人は、お菓子そのものが欲しいわけではありません。「仲間だと思っている集団から、自分だけ外される」という体験が、「ここにいてもいいのか」という不安に繫がるから悩んでいるのです。
人は、自分の居場所を常に探しています。この場所にいてもいい存在なのか、違うのか。その問いに態度でNOと示されると、不安を覚え、自尊心は傷つきます。お菓子は小道具。「あなたはこの輪に入れてあげない」と、無言で示されるから苦しいのです。
「くだらない」で終わらせなくていい
物事の本質に気づかないと、「お菓子をもらえなかったぐらいで」と、お菓子そのものに目が向きがちです。ですが、その小さなお菓子に込められたメッセージは、決して小さくありません。
「くだらない」と思おうとするのは、自分の心を守ろうとする自然な反応です。ですが、その思いで傷ついている気持ちまで「なかったこと」にしなくていいのです。これはハラスメントなのか、違うのか。その定義を探るよりも、苦しいと感じている事実のほうが、何倍も大切です。

まずは今、何が起きているのか、自分はどう感じているのかを一度整理し、自分の現在地を確認することから始めてみましょう。この環境で続けるのも、変えるのも、どちらも正解です。答えは、自分にしか出せません。会社は自尊心を削られる場所ではなく、自分の人生を支える場所。その場所をどこにするか選ぶ権利は、あなたが持っています。



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